山吹塾
〜『ビジュアル英文解釈』の使い方〜


『ビジュアル英文解釈』の使い方を細かく説明しています。やや長くなっているので、難しいことは抜きにして、どう使えばいいかだけ知りたい人は『ビジュアル英文解釈』の使い方 (簡易版)をご覧ください。

『ビジュアル英文解釈』とは

『ビジュアル英文解釈』は1987年(Part2は翌88年)に駿台文庫から出版された参考書で、著者はしばしば「受験英語の神様」と称される、元駿台予備校講師の伊藤和夫氏です。すでに英語のわかっている教師の立場ではなく、できない・わからない生徒の目線を重視しています。そのため、実際に英語を理解するまでのプロセスを示し、そのプロセスに沿った訓練を積ませるというスタンスをとっています。また、日本語を介さず、英語のままで読むという「直読直解」の理想に、少しでも近づくための具体的な方法も示されています。

構成としては、読解に必要な文法事項によって61章(Part1で36章、Part2で25章)に分け、
@章ごとに習得すべき文法事項の解説
Aその文法事項を含む200語程度の英文
Bその英文に対する丁寧かつ論理的な解説
C各章の英文を話題にした、I先生とG君R君の3人によるまったりとした(それでいて有益な)対話
となっています。

この本には伊藤先生の、長年の教師経験が見事に凝縮されていて、出版されてから20年以上経った現在でも、非常に多くの人に支持されています。きっと、本の中に出てくる2人の空想の生徒、R君G君と一緒に授業を受けているような感覚になることでしょう。そしてその授業は、I先生を含めた4人(後半は5人)のパーティーで臨む、ドラゴンクエストのような冒険にすら感じられます(勇者はあなたです。さすがにちょっと大袈裟ですが)。

一見しただけでは気づきにくいのですが、英文の選択、その掲載順序等を見ると、実に有機的に練られた構成になっていることがわかり、進めていくうちにらせん状に知識が積み上がっていきます。僕も受験生のころ何度も読みましたが、今頃になって「ああ、そういうことが言いたかったのか!」ということや、「以前は気付かなかったが、実にいいことが書かれているじゃないか」と感心し直すことが多くあり、実に奥が深い参考書だと思います。

最近では、一見似たような内容を、より薄くコンパクトにまとめて教えている参考書もあります。しかし深く見ていくと、他の本とは一線を画す秀逸な本だということがわかります。やり終えるのになかなか時間がかかるため、遅くとも高3の春までには始めたいところです。時間がない場合は、『ポレポレ 英文読解プロセス50』を中心としたやり方でもいいと思いますが、ゆとりがある人には『ビジュアル英文解釈』を強く薦めます。



腹を据えて取り組もう

非常に優れた本なのですが、やはり類書と比べて分量が多く、解説が丁寧で論理的で重量感があり、今どき珍しい白黒刷りでレイアウトが味気ない(というよりもレイアウトは悪い)ことから、根気のいる参考書と言えましょう。
最初のうちは非常に簡単ですが、読み飛ばすことは勧められません。なぜなら、取り上げていることにはきちんとした意味があり、この本に書かれていることを順に丁寧に積み重ねていくことで確かな力が付くような構成になっているため、ところどころ欠けた知識があると効果が半減してしまうからです。特にはじめの方は簡単すぎると思いますが、必ず丁寧に英文を訳し解説を読み、知っていることでも確認だと思って気長にいきましょう。といっても、じわじわと難易度が上がっていき、終盤になると一つの文章を全訳するのに1時間も2時間もかかることもあり、また違う意味で精神力を必要とします。

どの本にも言えることですが、決して1度やっただけでは十分ということはありません。伊藤先生の提唱する読み方を「型」として習得することを目指すため、何度も何度も読み返し完全に血肉化しなければ本当の効果が得られません。それには覚悟が必要です。

基本的にはやるのならば、腹を据えて、途中で投げ出すことなく根気強く続けていきましょう。

進めるペースについてですが、1,2年生でゆとりのある人は、随時復習を重ねながら、1日1章程度でよいでしょう。3年生ならば、1日2章程度のペースでないと厳しいように思います。1日に何章も進めると、逆に定着しにくくなると思うので、こなしすぎにも注意しましょう。



全訳ノートの作り方

まず取り組む前に、本の「はしがき」「使用上の注意」を熟読してください。Part1が半分くらい進んだら、もう一度してほしいくらいです。

それが済んだとして、各章の「焦点」が大体理解できるまでしっかり読みます。それから英文を全訳しましょう。これは解釈の勉強なので、無理にわからない単語の意味を推測する必要はなく、辞書で調べてしまいます。そしてそれぞれの訳文を1冊のノートにまとめるといいでしょう(Part1、Part2それぞれに、40枚ノート1冊がちょうどよいと思います)。これは、その英文に取り組んだ時点で自分がどういう解釈をし、どこが合っていて、どこをどう間違えたかということを、正確に判断し、記録として残しておくことを目的としています。記録を残さない場合、解説を読むときや復習するときに、自分が犯した構造上の細かいミスなどが見落とされて、効果が半減してしまいます。

ノートは余裕を持って書きましょう。当然、1ページにいくつもの英文の訳をびっしり書くのはいいやり方ではありませんし、後に読み返すことを考えると、あまり汚い字で書くことも勧められません。また、英文と解説を交互に見るのは実に面倒なので、英文をコピーしてノートの左ページに貼って、右ページに和訳などを書くのがベターでしょう。その方が復習もしやすいはずです。なお、ビジュアル英文解釈の英文をノートに貼れるサイズに編集したPDFファイルが欲しいという人はこちらへ。

余白があれば、自分がどう間違えたか、解説を読んでなるほどと思ったところを簡潔な言葉で記し、間違えた理由等を添えたりすると、あとで見返すときに役立つのではないでしょうか。
例えば、
「SVOCをSVOと勘違い:動詞がmakeでSVOCの可能性も残っていたが、Oがやたらと長かったためVとCのつながりが見えなかった」
と書くことで、同じ間違いを防ぐというだけでなく、積極的に誤解の原因をつきとめるきっかけにもなります。なお、英文の量が多いところでは、ノートが2ページでは足りなくなるかもしれませんが、その場合は紙を付け足したり、思い切って4ページ使ったりしましょう。もし右ページに英文が貼ってあったら、あまり笑えません。
これに限らず各自で工夫をし、自分なりの良いノートを作りましょう。

全訳が終わったら解説をじっくり読みます。英文を読む際の頭の働かせ方をしっかり頭に入れておきます。なお、どうしても理解できなかったところは、ページの脇にチェックするなりして、あとで必ず理解するようにしてください。「Review」にも目を通し、それは一体何が問われている文なのかを思い出し、今取り組んでいる英文との共通点を見出します。わからなければ、面倒くさがらずに戻って確認しましょう。解説を読み終わったら、訳さなくてもよいので、解説に書かれていたことを意識しながら英文をもう一度読むと効果抜群です。音読ができればなお良いでしょう。

もしかすると、しばらくは自分の解釈が正しいのかどうかも判断できないこともあると思います。そういうときはなんとなくで済ませるのではなく、信用できる先生を一人見つけて、自分の訳(つまり読み方)をチェックしてもらうべきだと思います。間違っているのに、問題ないと思ってそのままにしてしまうと、せっかく勉強しても当然ながら効果は半減してしまいます。より正しい判断をするためにも、面倒くさがらずに訳は丁寧に作るべきでしょう。




復習

その復習については、一通り終わったらやってもらいたいところですが、それとは別に、前日にやった分の英文を一度読んで(できれば音読)みて、わからないところ、はっきりしないところがあったら解説を読みましょう(何度読んでも読みすぎということはありません)。そしたら次の章に挑戦します。
ただし復習は翌日のみでは足りません。人間の脳の仕組みを考慮すると、一度やったものは翌日に復習し、2回目の復習はその1週間後、3回目はさらに2週間後、そしてその1か月後に4回目の復習をする・・・という風に、徐々にインターバルを広げながら復習すると、より効率よく定着します。

また、この本の目的は問題演習などとは全く異なり、伊藤先生の提案する読み方にしたがって頭を動かせるようにすることで、読めたから解説は読まなくてもいいとか、訳さえわかればいいというものではありません。つまり型として習得することなので、何度も解説を読み込むか、復習の際に、解説に書かれた内容を意識しながら何度も英文を読むことを勧めます。
一度やった項目が、それ以降の章で、難易度を上げながら何度も登場するので、そのたびに復習(プラス演習)ができるのもこの本の特徴です。

この本は英文を読む際に特に大事な点から取り上げているため、読み進めていく際にはやや体系性が低く(文法の項目ごとに順に扱ってくれるわけではない)、復習や参照がしにくいことでしょう。もちろん伊藤先生はそれがわかっているので(長年の経験の中で、『英文解釈教室』のような鳥瞰図的な構成をあきらめ、このような講義形式にたどり着いたというのが事実)、その欠点をカバーするために、Part2の終わりに「文法篇」があるわけです。なので、一通りやり終わったら必ず「文法篇」を読み、得た知識を整理してください。



「予想と確認と訂正」―左から右へ流れるように読むために

この本で何度も取り上げられている考え方として、「予想と確認と訂正」というものがあります。前から順に読んでいって、どれが主節の主語・述語動詞か、この単語の役割は何か、ここまではどういう構造で、この先はどうなるか、などということを考えながら(考えるといっても、それ自体は目的ではないので「意識しながら」くらいで)読むことが「予想」ということです。大事な点は、ピリオドまで読み終わってから、さらには動詞や接続詞の数を数えてから(!?)、中心となる主語や動詞、文の構造を決定するのではないということです。
私たちが日本語を読む際にも、読点までたどり着いてから、どれとどれと主語・述語で、この部分はあそこを修飾している、と分析するのではなく、前から順に読み進めながら自然にそれらがわかっていくように、英語を読む際にもピリオドまでいかなくても、前から読んでいく中で、その語の役割が感じ取れるようになるのが理想です。

ただし、日本人の私たちの中に、そのような英語の感覚が最初からあるのではありません。常に先の展開を「予想」し、もう少し後ろまで読んだときに、果たしてそれが合っているかを「確認」し、間違っていたら「訂正」し、なぜ予想が間違えたのかいうことを分析するという「予想と確認と訂正」という訓練を、意識的に何度も何度も繰り返すことで、はじめて正しい感覚が身についていくわけです。その感覚ができてくると、予想するまでもなく、誤った読み方というのが頭に浮かぶことさえなくなってくるはずです(たとえ、途中まで読んだだけでは、構造上は複数の解釈の可能性が残されていても)。    



和訳について

ここで、英文を読む際に一字一句和訳をしなければならない、という類の誤解をされていたら困ったものです。この本では「直読直解」(の足がかりを築くこと)が一つの目標となっており、和訳というのは教師と生徒が、お互い理解し合っていることを確認するためのツールであって、英文を読む際の目的でも、英文理解のための手段でもないと思うのです。
別の言い方をすれば、全く日本語を介さない英語の授業において、教師が英文の意味を生徒に正しく伝え、生徒が英文を正しく理解できたことを(特に、どこをどう誤解しているかを)、教師の側が確認する方法が存在するのだろうか、ということです。

ノートに全訳を書く際の理想的な姿勢としては、まずは和訳せずに英文を読み、英文の構造を見抜き意味を把握する。それが全体で完了したら、理解したことを日本語にしてみる。そこではじめて日本語を持ち出す。これが理想ではあります。
しかし、現実的な問題として『ビジュアル英文解釈』始めたばかりの生徒が、そのようないわゆる直読直解ができているわけはないでしょうし、「できた」といってもそれを確認する手段はありません。だから、はじめは少々行き来しながら構造を把握し和訳する、という方法でもいいのではないかと思います。

「こんな読み方をしていたら、試験問題を読み終える頃には日が暮れてしまう、ネイティブはこんな面倒な読み方はしないはずだ」
と文句を言いたくなる人もいるでしょうが、ここはさすが伊藤先生の著書ということで安心してください。左から右に、上から下へ読むための訓練・頭の働かせ方が随所に散りばめられており、この本を数回復習しながら他に読み込み用の英文をひたすら読んでいくうちに、わざわざ訳すことなく、左から右へ、上から下へ読み、ピリオドに行ったときに全てが終わっている、という状態に少しずつ近づいていけるはずです。

英語が使いこなせるようになるには、当然この本だけでは全く不十分ですが、少なくともこの本で示したような過程を経ることなしに、私たち日本人は正しい方法で、かつ日本語を介さずに、英語を使えるようにはならないのではないでしょうか。もちろん英語圏の国に長く暮らせば話は別ですが・・・そんな人のことまで構っていられません。


これらのことはこの本を読めば簡単にわかることなのですが、世の中困ったもので、「和訳を勧めるなんて全くナンセンスね。ネイティブ和訳しないデスヨ」「こんな読み方じゃ時間がかかってしょうがない。試験でしか通用しない」など、「本当にあなたは伊藤先生の著書を読んだことがあって批判しているのか?」と聞きたくなるような批判をする人が多いのが事実です(もちろん実際に読んで、的確に問題点を示す人もいます)。
何事も批判するのは構わないのですが、せめて相手のことをある程度知ってからするのがマナーだと思います。そして僕もそうならないように気をつけたいものです。


別の角度から和訳について考えてみます。当然、読むことと訳すことは別の話ですが、和訳せよという問題ではどうしても英文の内容を日本語にしなくてはなりません。問題によっては、日本語と英語の構造の違いから、日本語にするのにひどく苦戦することがあると思います(これまでになくても、受験勉強の過程で必ず出会うものです)。いわゆる日本語にしにくい英文が和訳問題として出題されたとき、英語の内容正しく伝えながらも、日本語として読み手が十分に理解できるような訳を書くということは、ある意味で日本語を見つめ直すということでもあるわけで、生きている以上日本語を用いなければならない私たちにとって、実は非常に有意義な行為であるといえるわけです。
そこでひとつ、自分の書いた訳文を、もとの英語のことはいっさい忘れて、それ自体で理解できる文、筋の通った文章であるかをチェックしてみてはどうかというわけです。実に意味不明な文を書いているなと感じる人がたくさんいると思います。

"Wer fremde Sprachen nicht kennt, weiss nichts von seiner eigenen."
(外国語を知らないものは、自国語についても無知である)

これはドイツのゲーテの言葉ですが、私たちも外国語を学び、自国語を相対的に見つめ、それを国語力の向上につなげられたらと思います。かくいう僕の拙い日本語については目を瞑ってもらいたいです。
ただ和訳においては、そもそも英語を正しく読めないことには日本語の良し悪しを気にしてもどうしようもないと言いますか、全く構造のつかめない英文を無理矢理日本語に直すことは、かえって日本語の感覚を破壊することにもなるので、そこはぜひ頭に入れておいてほしいと思います。



Home Roomについて

ところで、各章の最後にあるHome Roomについて、あのやり取りが肌に合わない人、いったい何のために存在するのだろうと思う人がいるかもしれません。しかしこの良さは読み進めていくうちにわかってくると思います。ちょっと一休みという意味だけでなく、伊藤先生の長年にわたる英語指導の中でたどり着いた重要な考えがつまっており、これを読むことで今後英語と向き合っていく際の道しるべとなるように思います。

他の講義調の参考書にもよく見られる、架空の受験生と著者との対話(Q&A)は、今ではよく見られるようになりました。といってもその多くは、著者が自分の意見を引き出すために用意された「サクラ」でしかないので、その人物が全くいきいきとしておらず、まるで安っぽいTVショッピングやニュースバラエティを見ているようなものです。その一方で、『ビジュアル英文解釈』のHome Roomに登場する3人の生徒は、当然伊藤先生の主張を導くために作られたものではありますが、それぞれが実にリアルな人格を持っており、「学者」(初期はその色が濃かったわけですが)ではなく、長年にわたり、数えきれないほどの受験生と現場を共にした「教師」であったからこそなせるわざだと感心せずにはいられません。ということで、Home Roomもかなりオススメです。

また、Home Roomの存在にも反映されていることですが、この本は文章を読む際に頻出するそれぞれの構文に対し、「この構文はこう訳す(こう解釈する)」というようなことを網羅している本ではありません(世にはそのような本が多いのですが)。では何が重要かと言えば、個別の構文を扱いながら、英文を読む際の「基本姿勢」を徹底的に教えてくれる、というよりも一緒に考えてくれるというところです。僕がこの本を高く評価しているのは、この点にあるといってもいいと思います。

ってなわけですが、注文をつけるとしたら、レイアウトが見にくい、特に英文と解説をいったりきたりするのが面倒なので、英文を別冊にしてほしいいのと、英文の音読CDがついていたらなお良いということです。もう500円値上げしても全然構いません。
これはすでに多くのところで言われていることですが、出版社の方が見ていれば(まあないと思いますが)、ぜひ考えてみていただけないでしょうか?ただし、ハードカバーとイラストはこのままにしてほしいというのが個人的な願いです。    



伊藤先生の言葉

最後に、伊藤先生の名著『英文解釈教室』から非常に有用な言葉を少し引用します。

「誰でも歩くことはできるが、歩くときの筋肉の動きを説明できる人は少ない。(中略)
生活に必要な活動であればあるほど、その(習得)過程は無意識の底に沈んでいる。
しかしこれらの生得の活動の場合とはちがって、幼児期を過ぎてからの外国語学習では、意識の底にやがては定着し知らず知らずに働くことになる頭の動きを一度は自覚し、組織的に学習することが必要である。(中略)
英語を読む際に具体的に頭はどのように働くのか、また働くべきなのかを解明することである。」(英文解釈教室のはしがきより)
「本書の説く思考法が諸君の無意識の世界に完全に沈み、諸君が本書のことを忘れ去ることができたとき、『直読直解』の理想は達成されたのであり、本書は諸君のための役割を果たし終えたこととなるであろう。」(英文解釈教室のあとがきより)

それでは頑張っていきましょう。   



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